予感はこれだったんだ。


おばあちゃんは動かない。


話さない。


笑わない。


怒らない。



この肉体は抜け殻。



戸愚呂が―――――許せない



でも……あたしにはどうすることもできない。戸愚呂を倒す力もない。




おばあちゃんの亡骸はお兄ちゃんがつれていった。
本当はあたしも一緒に帰したかったようだけど、泣きじゃくるぼたんを残してはおけないと言ったあたしを止めることはしなかった。
そんなお兄ちゃんの目にもうっすら涙が浮かんでいた。

ぼたんは泣き付かれて眠った。

螢子ちゃん、雪菜ちゃんはあたしたちの様子が変なことに気付いたようだけどそっとしていてくれた。

温子さんと静流さんは静かにお酒を飲んでいた。

桑原くんは部屋にこもっている。

幽助くん、蔵馬、飛影くんは戻っていない。




そっとホテルを抜け出し歩く。


どこへあてもないけれど。




泣き場所を探してるのかも――――



ふとそんなことを思った。


みんなの前で泣けなかった。

涙が出てこなかった。
泣くと認めてしまいそうで怖かった。




もう いない。

「…うっ……ひっく」



泣いてもいいよって言われた気がした。



「くら…まっ…」




彼は目の前に立ってた。



「……嫌なら言って」



そういってあたしを抱き締めた。

ほのかに薔薇の匂いがする。



「…えっく……おばあちゃ…」



優しく頭を撫でてくれる蔵馬。

蔵馬の背中にまわした手に力を込める。



離したくない。


離れたくない。


ここがあたしの泣き場所だ。



そう



思った。

蔵馬は歩いていた。

ホテルに帰るつもりはない。

鴉に挑発され憤った自分を沈めていた。

そんな時に感じた幻海の死。


気付けば夜も更けていた。

行かなければならない気がした。


なぜだか歩き出していた。

―――どこへ行こうと言うんだ?

意識とは無関係に体は進むべき道を知ってるように動いている。

なんとなくおかしくなって自嘲気味に笑う。


ピタ


足が止まった。




目の前に少女がいる。
両目にこぼれんばかりの涙を浮かべて俺を見ている。



「…うっ……ひっく」



とうとう瞳から涙がこぼれた。

体の奥から何かがわき上がってくる。



「くら…まっ…」



彼女が俺を呼ぶ。

引き寄せられる。



「……嫌なら言って」


俺は彼女を抱きしめていた。

彼女からはほのかに甘い匂いがする。

意識を麻痺させるような感じを覚える。

彼女は俺の背に腕をまわし強くすがるように力を込めた。

「…えっく……おばあちゃ…」

泣きじゃくる彼女。

俺は何も言えなかった。

ただずっとひとつの単語だけ思っていた。





呪文のように繰り返し彼女の名前を呼んでいた。

愛しいと



思った。



今この腕の中にいる彼女を―――…

二人は寄り添って座っていた。

の涙は溢れることをやめていた。

「…泣き場所」

消え入るような声で

「え?」

話の見えない蔵馬が聞き返す。

「泣けなかったの、あたし。みんな泣いたのに」

潤んだ瞳で蔵馬を見上げ

「泣き場所探してたら、いたの」

なにが?と尋ねる前に蔵馬の胸にコツンと頭を寄せる。

「ありがとう」

「何もしてない」

「泣かせてくれたじゃない」

「それは偶然―…」


言いかけて気付く。


「蔵馬?」

黙り込んだ蔵馬に怪訝そうな

「ごめん。…偶然じゃなかったのかもしれないって思ってさ…」


に会うまでの自分の行動。

彼女に引き寄せられていた?

運命なんて信じているわけではないけどすごく自然に思えた。

(これが運命ってやつかもな)

不思議そうに蔵馬を見上げる


「…嫌なら…言って」

二人の顔が近付く。

月明かりの中ふたりは唇を重ねた。





「蔵馬、傷大丈夫?痛まない?荷物持つよ」

「大丈夫だよ。さ、行こうか。足元気を付けて」

二人は仲睦まじく帰りの船に乗船する。

「おい、あれってもしかして」

「お前も気付いたか浦飯」

「蔵馬とがねぇ〜なかなかお似合いじゃないか、なぁコエンマ」

「冗談じゃない!ワシが親父に殺されるんじゃぞ!!幻海どうにかしてくれ!」

「ふん。いい様だなコエンマ」

「飛影!貴様っ」

うろたえるコエンマをよそにみんなはどんどん乗船していく。甲板にはいつの間にかできたカップルがにこやかにこちらを見ていた。

「幽助〜かくまってくれ〜!」

コエンマの叫びも知らずに……


〜〜fin〜〜